配偶者に自己破産申立てをすることを知られたくない
自己破産申立てを検討されている方から「配偶者に自己破産申立てをすることを知られたくない」と相談を受けることもよくあります。
配偶者の理解,協力を得ながら借金問題を解決することは理想といえます。しかし,現実問題として,「借金問題を配偶者に知られたら夫婦関係がうまくいかなくなるので,できれば配偶者に知られずに自己破産したい」等と考えるのは自然なことだと思います。
自己破産申立書に添付する必要書類の1つとして,「家計収支表」があります。申立人に配偶者が存在し,家計が同一の場合(これが通常でしょう),収入欄には申立人の収入だけでなく配偶者の収入も記載し,支出欄には申立人だけでなく配偶者も含めた食費や携帯電話料金等を記載する必要があります。
したがって,配偶者に知られずに自己破産申立て手続きを進めたい場合は,「自己破産申立てをすることを配偶者に告げることなく家計収支表を作成できるか否か」を考える必要があります。
勤務先に自己破産申立てすることを知られたくない
自己破産申立てを検討されている方から「勤務している会社には自己破産申立てをすることを知られたくない」と相談を受けることがよくあります。
勤続5年以上の会社員の方が京都地方裁判所に同時廃止の自己破産申立てをする場合,当面退職する見込みがない場合でも,退職金(見込)額証明書があれば,その証明書を提出する必要があります。
しかし,現実的に見て,勤務先に証明書の発行を依頼した場合,その用途を勤務先から聞かれることが通常でしょうから,自己破産申立てをすることが会社に知られる可能性が高まると言えます。
そこで,自己破産申立てをすることを勤務先に知られたくない人が存在することも想定した上でと思われますが,京都地方裁判所では,「退職金(見込)額証明書の収集が困難な場合」に「退職金支給規程及び計算書」を代わりに提出することができます。
「退職金支給規程及び計算書」を提出する場合,勤務先に自己破産申立てをすることを知られる可能性はかなり低くなると思われます。
自己破産と住所変更(引越し)
破産申立書は,申立人の住所地(住民票上の住所地ではなく,実際に居住している所)を管轄する地方裁判所に提出します。もっとも,営業所のある営業者が破産申立てをする場合は,主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となるので注意が必要です。
では,地方裁判所に破産申立書を提出し,その後に破産手続きが開始された場合,住所変更(引越し)することに制限は生じるのでしょうか?
この点,管財事件では,裁判所が破産手続開始決定を出すことにより,申立人は破産者となりますが,破産者は,その申立てにより裁判所の許可を得なければ,その居住地を離れることができません(破産法37条)。実務上,破産申立代理人が破産管財人に住所変更の同意を求め,同意が得られた場合,破産申立代理人は裁判所に(同意欄に破産管財人の記名押印のある)許可申請書を提出します。
一方,同時廃止事件では,破産手続きは破産手続開始と同時に廃止されるため,原則的に居住の制限は受けません。もっとも,破産手続開始決定から免責許可決定が出るまでの間に住所変更した場合,(住民票を移動させた場合は住民票を添付した)住所変更の上申書を裁判所に提出し,住所変更を報告しなければなりません。
小規模個人再生申立て後の大まかな手続きの流れ
以下は,京都地方裁判所に小規模個人再生申立てをした場合の,大まかな手続きの流れです。
申立て後,申立書類に不備や誤りがないかチェックされ,不備や誤りがあれば補正を求められます。なお,京都地方裁判所の現在の運用では,裁判所が必要であると認めた場合に個人再生委員が選任されることがあります。
裁判所が開始要件を満たしていると判断した場合,個人再生手続きが開始されます。京都地方裁判所では,個人再生手続開始決定時に,申立代理人弁護士に個人再生手続進行予定表が交付されます。その予定表には,債権者の債権届出期間,再生計画案提出期限,書面による決議に付する旨の決定の予定日,再生計画の認可・不認可決定の予定日等が記載されています。
大まかなスケジュールのイメージとしては,個人再生手続開始決定日の約10週間後が再生計画案提出期限日とされ,再生計画案提出期限日から約6週間後が再生計画の認可・不認可決定の予定日とされます。
無事,再生計画の認可決定が出た場合,基本である3か月に1回の支払いの場合には,認可決定の確定日の属する月の3か月後の月を第1回目として,再生計画に基づいて各債権者に対する返済を開始します。
給与差押えと自己破産
借金問題でご相談に来られる方の中には,債権者に給与の差押え(強制執行の一つ)をされたことをきっかけに,自己破産申立てを決意され,自己破産申立て続きをご依頼される方がおられます。
受任後,債権者に自己破産申立て手続きの受任通知を出しますが,それだけでは,法律上,給与の差押え手続きを止めることはできません。
破産法42条1項には,破産手続開始決定があった場合には,強制執行等ができなくなる旨規定されており,同条2項には,破産手続開始決定前に既に強制執行がなされているものについて,破産手続開始決定後は失効する旨規定されています。もっとも,担保不動産競売等はこれに当てはまりませんし,破産手続開始決定時に既になされている国税滞納処分は続行されます。
そこで,給与の差押えがなされてから自己破産申立て手続きを受任した場合(受任通知を出す際に債権者に給与の差押え手続きの取下げを要請しますが,要請通りに取り下げられることはないと考えた方がよいでしょう。),できるだけ速やかに自己破産申立てをしなければなりません。
同時廃止事件としての自己破産申立てをした場合(申立人を「Aさん」とします。)を例にしますと,申立て後に,破産手続開始決定が出た場合,速やかに,給与の差押え手続きの執行裁判所に「強制執行停止」の上申書を提出します。その後,給与の差押え手続きは「停止」されますが,給与からの天引きは続き,Aさんの勤務先はAさんにも天引き分を支払うことなく,勤務先でプールすることになります。その後,免責決定が確定した段階で,執行裁判所に今度は「強制執行失効」の上申書を提出します。
ここでようやく給与の差押え手続きは失効し,勤務先のプール金もAさんに支払われることになります。
借金問題の相談を受けて最近,気になったこと
借金問題に関して法律相談を受けることが多くありますが,最近,気になることに触れたいと思います。
借金を返済することが難しくなった方々が,当事務所に相談に来られた結果,自己破産申立てや個人再生申立てを受任することがあります。
その中には,過去に司法書士や弁護士に任意整理を依頼し,債権者との間で分割払いの和解が成立したもの,結局,その後の返済が難しくなり,挫折した方々がおられます。気になるのは,さらにその中に,当初から自己破産申立てや個人再生申立てを依頼すべきであったにも関わらず,早期に返済が挫折することが明らかな無理な任意整理を依頼した方々が散見されることです。これらの方々は,任意整理をするのに支払った司法書士費用や弁護士費用について,無駄な出費をされたと言っても過言ではありません。
残念ながら,相談者の返済能力を度外視して安易に任意整理を勧める司法書士や弁護士が存在することは事実です。ですから,特に任意整理を希望されている方は,あらかじめ月々返済することが可能な金額を算定した上で,その金額以内に収まる任意整理をすることが可能か否かについて,司法書士や弁護士に質問することも大事なのではないかと思います。
最近の任意整理について思うところ
久々にコラムを書きます。
任意整理のメリットとして,「将来利息をカットできる場合が多い」という点が挙げられます。
もっとも,小規模の消費者金融会社(いわゆる街金業者も含む)については,これまでも,任意整理に応じてもらえるとしても,将来利息が付加される場合が大半でした。
一方,大手消費者金融会社では,それまでの取引期間に応じて分割支払期間の長短はあるものの,少なくとも将来利息はカットした任意整理に応じてもらえることが大半でした。ところが,昨年から,借入時の利息よりは低いとはいえ,原則的に将来利息を付加した任意整理にしか応じない大手消費者金融会社が出現しています。また,将来利息を付加しないとしても,原則的にある程度まとまった金額の頭金の支払いを内容とする任意整理にしか応じない会社もあります。
「任意整理すると将来利息はカットされる」と言えない場合が増えていますので,この点も頭に入れて,借金問題解決の手段として任意整理を選ぶかどうかを検討する必要があります。
任意整理後の支払いの遅延
任意整理により、債権者との間で分割払いの和解する場合、大抵、「2回分以上支払いを滞納すれば期限の利益を喪失して残債務を一括して支払い、さらに期限の利益を喪失した翌日から遅延損害金を支払わなければならない」といった懈怠約款の条項が和解書に盛り込まれます。
上のような懈怠約款が付いている例では、1か月分支払いが遅れてしまった場合、できるだけ早く延滞分を支払えば問題ありません。しかし、例えば2か月間続けて支払いを怠り、2回分以上支払いを滞納している状態になれば、債権者から残債務額を一括請求されてしまうと考えてください。
そうならないように、まずは、家計収入や家計支出等から考えて、無理のない分割返済の和解をすることが重要です。
この点、複数の債権者との間で明らかに無理のある分割返済の和解をしたために、案の定、早い段階で約定通りに返済できなくなって当事務所に相談に来られ、自己破産等の他の債務整理の手段を取らざるを得なくなる方もおられます。
同時廃止事件か管財事件か・その4
1.前回までのコラムでは同時廃止事件と管財事件について、どのような基準で手続選択をするのかについて、やや細かい基準を取り上げました。
今回は、実際によく見られる例として、申立人が住宅ローンの残っている不動産を所有している場合を取り上げます。ここでも京都地方裁判所に申し立てる場合を想定しています。
2.まず大枠について述べますと、不動産の固定資産税評価額と,抵当権の被担保債権残額の比較により、同時廃止事件として申し立てるか管財事件として申し立てるかを決めます。
3.前提として、一般的に,固定資産税評価額は、不動産時価の70%程度と言われています。さらに、京都地方裁判所では、同時廃止事件として申し立てる場合に、抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍を超え2倍までの場合に、不動産の評価に関する書類が申立時に必要です。
4(1)そこで、抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の2倍を超える場合は、迷わずに同時廃止事件として申し立てます。
(2)抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍を超え2倍までの場合は、不動産の査定書を取り寄せた上、不動産査定額が抵当権の被担保債権残額を超えない場合は同時廃止事件として申し立て,超える場合は管財事件として申し立てます。
(3)抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍未満の場合は、管財事件として申し立てます。
当事務所では、管財事件として申し立てることによる申立人の様々な負担等に鑑み、安易に(同時廃止事件として申し立てることができるのに管財事件として申し立てることを意味します)、管財事件として申し立てることのないよう心がけています。
同時廃止事件か管財事件か・その3
京都地方裁判所で(少額)管財事件として扱われる基準の1つとして、「個別の財産(同種のものが数口ある場合には、それらを合算した金額を基準とする。)が20万円以上の場合。」を挙げました。
前回に、個別の財産とは何かを取り上げましたが、この内、今回は「退職金」について取り上げます。
京都地方裁判所の場合、退職が間近という事情がない場合は、仮に現在、退職した場合の退職金の金額を算出し、その金額の8分の1が20万円以上の場合は、(少額)管財事件として自己破産の申立てをします。なぜ、仮に現在退職した場合の退職金の8分の1という運用になっているのでしょうか。
法律上、退職金債権の4分の3は、差押禁止債権となっており、4分の1のみが差押可能となっていますが、さらに退職が間近という事情がなければ、仮に現在退職した場合に算出した退職金額が実際に受け取れるかどうか不確かであることから,さらに2分の1をかけた8分の1になっていると言えます。
京都地方裁判所では、自己破産申立人の勤務先について勤続5年以上の場合は、退職金(見込額)証明書が申立て時の必要書類として提出が求められています。もっとも、勤務先に「自己破産申立てをするので証明書を出して下さい。」とは言いにくい場合が多いのではないでしょうか。そのような場合を含めて、証明書の収集が困難な場合は、代わりに退職金支給規程と退職金計算書を提出することになっています。