給与差押えと自己破産
借金問題でご相談に来られる方の中には,債権者に給与の差押え(強制執行の一つ)をされたことをきっかけに,自己破産申立てを決意され,自己破産申立て続きをご依頼される方がおられます。
受任後,債権者に自己破産申立て手続きの受任通知を出しますが,それだけでは,法律上,給与の差押え手続きを止めることはできません。
破産法42条1項には,破産手続開始決定があった場合には,強制執行等ができなくなる旨規定されており,同条2項には,破産手続開始決定前に既に強制執行がなされているものについて,破産手続開始決定後は失効する旨規定されています。もっとも,担保不動産競売等はこれに当てはまりませんし,破産手続開始決定時に既になされている国税滞納処分は続行されます。
そこで,給与の差押えがなされてから自己破産申立て手続きを受任した場合(受任通知を出す際に債権者に給与の差押え手続きの取下げを要請しますが,要請通りに取り下げられることはないと考えた方がよいでしょう。),できるだけ速やかに自己破産申立てをしなければなりません。
同時廃止事件としての自己破産申立てをした場合(申立人を「Aさん」とします。)を例にしますと,申立て後に,破産手続開始決定が出た場合,速やかに,給与の差押え手続きの執行裁判所に「強制執行停止」の上申書を提出します。その後,給与の差押え手続きは「停止」されますが,給与からの天引きは続き,Aさんの勤務先はAさんにも天引き分を支払うことなく,勤務先でプールすることになります。その後,免責決定が確定した段階で,執行裁判所に今度は「強制執行失効」の上申書を提出します。
ここでようやく給与の差押え手続きは失効し,勤務先のプール金もAさんに支払われることになります。
借金問題の相談を受けて最近,気になったこと
借金問題に関して法律相談を受けることが多くありますが,最近,気になることに触れたいと思います。
借金を返済することが難しくなった方々が,当事務所に相談に来られた結果,自己破産申立てや個人再生申立てを受任することがあります。
その中には,過去に司法書士や弁護士に任意整理を依頼し,債権者との間で分割払いの和解が成立したもの,結局,その後の返済が難しくなり,挫折した方々がおられます。気になるのは,さらにその中に,当初から自己破産申立てや個人再生申立てを依頼すべきであったにも関わらず,早期に返済が挫折することが明らかな無理な任意整理を依頼した方々が散見されることです。これらの方々は,任意整理をするのに支払った司法書士費用や弁護士費用について,無駄な出費をされたと言っても過言ではありません。
残念ながら,相談者の返済能力を度外視して安易に任意整理を勧める司法書士や弁護士が存在することは事実です。ですから,特に任意整理を希望されている方は,あらかじめ月々返済することが可能な金額を算定した上で,その金額以内に収まる任意整理をすることが可能か否かについて,司法書士や弁護士に質問することも大事なのではないかと思います。
最近の任意整理について思うところ
久々にコラムを書きます。
任意整理のメリットとして,「将来利息をカットできる場合が多い」という点が挙げられます。
もっとも,小規模の消費者金融会社(いわゆる街金業者も含む)については,これまでも,任意整理に応じてもらえるとしても,将来利息が付加される場合が大半でした。
一方,大手消費者金融会社では,それまでの取引期間に応じて分割支払期間の長短はあるものの,少なくとも将来利息はカットした任意整理に応じてもらえることが大半でした。ところが,昨年から,借入時の利息よりは低いとはいえ,原則的に将来利息を付加した任意整理にしか応じない大手消費者金融会社が出現しています。また,将来利息を付加しないとしても,原則的にある程度まとまった金額の頭金の支払いを内容とする任意整理にしか応じない会社もあります。
「任意整理すると将来利息はカットされる」と言えない場合が増えていますので,この点も頭に入れて,借金問題解決の手段として任意整理を選ぶかどうかを検討する必要があります。
任意整理後の支払いの遅延
任意整理により、債権者との間で分割払いの和解する場合、大抵、「2回分以上支払いを滞納すれば期限の利益を喪失して残債務を一括して支払い、さらに期限の利益を喪失した翌日から遅延損害金を支払わなければならない」といった懈怠約款の条項が和解書に盛り込まれます。
上のような懈怠約款が付いている例では、1か月分支払いが遅れてしまった場合、できるだけ早く延滞分を支払えば問題ありません。しかし、例えば2か月間続けて支払いを怠り、2回分以上支払いを滞納している状態になれば、債権者から残債務額を一括請求されてしまうと考えてください。
そうならないように、まずは、家計収入や家計支出等から考えて、無理のない分割返済の和解をすることが重要です。
この点、複数の債権者との間で明らかに無理のある分割返済の和解をしたために、案の定、早い段階で約定通りに返済できなくなって当事務所に相談に来られ、自己破産等の他の債務整理の手段を取らざるを得なくなる方もおられます。
同時廃止事件か管財事件か・その4
1.前回までのコラムでは同時廃止事件と管財事件について、どのような基準で手続選択をするのかについて、やや細かい基準を取り上げました。
今回は、実際によく見られる例として、申立人が住宅ローンの残っている不動産を所有している場合を取り上げます。ここでも京都地方裁判所に申し立てる場合を想定しています。
2.まず大枠について述べますと、不動産の固定資産税評価額と,抵当権の被担保債権残額の比較により、同時廃止事件として申し立てるか管財事件として申し立てるかを決めます。
3.前提として、一般的に,固定資産税評価額は、不動産時価の70%程度と言われています。さらに、京都地方裁判所では、同時廃止事件として申し立てる場合に、抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍を超え2倍までの場合に、不動産の評価に関する書類が申立時に必要です。
4(1)そこで、抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の2倍を超える場合は、迷わずに同時廃止事件として申し立てます。
(2)抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍を超え2倍までの場合は、不動産の査定書を取り寄せた上、不動産査定額が抵当権の被担保債権残額を超えない場合は同時廃止事件として申し立て,超える場合は管財事件として申し立てます。
(3)抵当権の被担保債権残額が固定資産税評価額の1.5倍未満の場合は、管財事件として申し立てます。
当事務所では、管財事件として申し立てることによる申立人の様々な負担等に鑑み、安易に(同時廃止事件として申し立てることができるのに管財事件として申し立てることを意味します)、管財事件として申し立てることのないよう心がけています。
同時廃止事件か管財事件か・その3
京都地方裁判所で(少額)管財事件として扱われる基準の1つとして、「個別の財産(同種のものが数口ある場合には、それらを合算した金額を基準とする。)が20万円以上の場合。」を挙げました。
前回に、個別の財産とは何かを取り上げましたが、この内、今回は「退職金」について取り上げます。
京都地方裁判所の場合、退職が間近という事情がない場合は、仮に現在、退職した場合の退職金の金額を算出し、その金額の8分の1が20万円以上の場合は、(少額)管財事件として自己破産の申立てをします。なぜ、仮に現在退職した場合の退職金の8分の1という運用になっているのでしょうか。
法律上、退職金債権の4分の3は、差押禁止債権となっており、4分の1のみが差押可能となっていますが、さらに退職が間近という事情がなければ、仮に現在退職した場合に算出した退職金額が実際に受け取れるかどうか不確かであることから,さらに2分の1をかけた8分の1になっていると言えます。
京都地方裁判所では、自己破産申立人の勤務先について勤続5年以上の場合は、退職金(見込額)証明書が申立て時の必要書類として提出が求められています。もっとも、勤務先に「自己破産申立てをするので証明書を出して下さい。」とは言いにくい場合が多いのではないでしょうか。そのような場合を含めて、証明書の収集が困難な場合は、代わりに退職金支給規程と退職金計算書を提出することになっています。
同時廃止事件か管財事件か・その2
前回のコラムで、京都地方裁判所で(少額)管財事件として扱われる基準の1つとして、「個別の財産(同種のものが数口ある場合には、それらを合算した金額を基準とする。)が20万円以上の場合。」を挙げました。
では、個別の財産とは何でしょうか?
この点、「預貯金・積立金」、「受取手形・小切手」、「売掛金」、「在庫商品」、「貸付金」、「不動産」、「機械・工具類」、「什器備品」、「自動車」、「電話加入権」、「有価証券」、「賃借保証金・敷金」、「保険解約返戻金」、「過払金」、「退職金」が主な財産として挙げられます。
この内、今回は「自動車」について取り上げますと、所有自動車の時価が20万円未満として同時廃止事件として申し立てる場合、京都地方裁判所の場合、普通自動車で初度登録から7年以内、軽自動車・商用の普通自動車で5年以内、又は新車価格が300万円以上の場合は、自動車の評価(時価)に関する書類が自己破産申立て時に提出が必要な書類となっています。
同時廃止事件か管財事件か
個人債務者破産事件について、このサイトでは、同時廃止事件と(少額)管財事件の2種類があることが書かれてあります。
今回のコラムでは、どのような基準で「同時廃止事件」と「管財事件」の手続選択をするのかについて書きます。同時廃止事件と管財事件の振り分け基準について、インターネットで検索すると、東京地方裁判所や大阪地方裁判所などの基準を見ることができますが、全国の地方裁判所で一律の基準を取っているわけではありませんので、注意しましょう。
ここでは、京都地方裁判所の現在の振り分け基準を書きます。もっとも、具体的な事件処理に際し、個別の事案に応じた判断がなされる場合があることにも気をつける必要があります。
京都地方裁判所では、以下(1~3)の財産を有する場合は、原則として管財事件としています。
1.現金と預貯金(申立直前の年金・給与を原資とする普通預金及び通常貯金)を併せた金額が50万円以上の場合。
2.個別の財産(同種のものが数口ある場合には、それらを合算した金額を基準とする。)が20万円以上の場合。但し、預貯金については、申立直前の年金・給与を原資とする普通預金及び通常貯金を除く。
3.上記2に該当しない場合でも、全体(但し,現金及び上記1の預貯金を除く。)の合計額が多額になった場合。
上記1~3の基準について、さらに裁判所から補足説明がなされていますが、ここでは割愛します。
「具体的な事件処理に際し,個別の事案に応じた判断がなされる場合がある」ということですが、上記財産の基準では同時廃止事件になることから、同時廃止事件として自己破産申立てをしたものの、裁判所が、破産管財人を選任してさらに免責調査等をさせる必要があると判断して、管財事件に移行させる場合があります。
なお、上記の振り分け基準は、平成30年4月1日以降に京都地方裁判所に申し立てられる破産事件の基準であって、今後も不変というわけではありません。基準の見直し等がありましたら、新たな基準を記したいと思います。
自己破産か個人再生か
借金の総額が膨れ上がって、支払不能やそれに近い状態になった場合に、債務整理の方法として「自己破産」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、「個人再生」の方法もあります。
「自己破産」と「個人再生」について、借金の免除額を比較すると、全額免除される自己破産と比べて、個人再生は、借金額が1500万円未満(住宅資金特別条項付の場合の住宅ローン額を除く)の場合、最大でも5分の1まで減額されるにとどまるとも言えます。
したがって、借金免除額をさしおいて、自己破産の方法を取るよりも、個人再生の方法を取る方がメリットが大きい場合に、個人再生の方法を取ることになります(もっとも、当然ですが「個人再生」の利用要件を満たす必要があります。この点については別の機会に触れたいと思います。)。
では、「個人再生」のメリットは何でしょうか。
1つ目の「個人再生」メリットとして、「住宅資金特別条項」を利用できる場合は、住宅ローンを現に支払っているマイホームを手放さずにすむことが挙げられます。住宅ローンを引き続き支払いながら何とかマイホームを残して債務整理をしたいと考える方にとって、「住宅資金特別条項」付きの個人再生は、メリットが非常に大きいと言えます。
2つ目の「個人再生」メリットとして、自己破産の場合には存在する職業制限がないことが挙げられます。具体的には、自己破産では、警備員、生命保険募集人、宅地建物取引士などの職業について、一定の期間就くことができません。
実際、これらの職業に就いて現に業務に従事しているために、自己破産を避けて個人再生の方法を選択される方がおられます。
3つ目の「個人再生」のメリットとして、自己破産では手放さなければならない可能性の高い財産を残せることが挙げられます。
その他にもメリットはありますが、代表的なものを書きました。
なお、「自己破産で全額免除を受けるのは、債権者者の方々に申し訳なく、借金の一部でも返済する個人再生の方法を取りたい。」と考え、個人再生を選択される方も中にはおられます。
時効援用
①時効援用について
時効援用について少し触れたいと思います。
貸金業者から借り入れをした後、その貸金業者から裁判上の請求もされることもなく最終返済日から5年以上(10年以上)経過してから、「突然、債権回収会社から借金の請求書が届いた。どうすればいいの?」と慌てて相談に来られる方がおられます。この場合、「消滅時効の援用」をすることにより、借金の消滅時効が成立する場合があります。これにより借金の返済義務がなくなります。当事務所では、「配達証明付きの内容証明郵便で債権者に時効援用通知を送付する」ご依頼も承っております。
弁護士費用は1社あたり33,000円(税込)です。
上の例のような請求書が突然届いた後、思わず一部でも返済をすれば,時効完成後の債務の承認となり、以後、時効の援用権の行使ができなくなる場合があります。一人でどうするか判断することなく,弁護士等の専門家に相談しましょう。